やっとやっと紙についてのページ「銅版画で使用する紙 (洋紙)」を公開しました。ご興味ありましたらご覧ください。
おすすめ技法書みみずくアートシリーズの「銅版画ノート」で4種類の紙で刷り上がりの比較をしていて、いつかやってみたいなと思っていたので、6種類(色違い含め全8種)の紙を使って刷り比べをしてみました。
ただ黒インクの時同様、多分使う版の選択が良くなかったためにシャープさや滲み具合の違いを出すことができませんでした。面メインの絵ではなく、線メインだと違いがよく出たのではないかと思います。その上で、それぞれの紙についての印象など感じたことはありましたので、紙のページに少し書きました。
刷り上がり比較検証としてはパッとしなかったのですが、初めて使ったフランス製のベランアルシュ(Velin Arches)のナチュラルホワイトがあまりに美しく素晴らしく、心臓がバクバクドキドキして、すごいすごいすごいと言いながらくるくる回ってしまいました。
紙自体の見た目の柔らかさと、丁寧に泡立てられた超上質な生クリームのような白。真っ白ではなくCanson® Editionのアンティークホワイトをもう少し落ち着かせた、表面はほのかにピンク味があるようにも見えるけど、奥の奥に青みグレーを感じるような白。普段使っているドイツ製ハーネミューレ(Hahnemühle)5716も同じ「ナチュラルホワイト」という名前ではあるのですが (アルシュは海外のサイトでは「White」で販売している場合が多い)、いろいろな紙を並べてみるとハーネミューレはかなり黄みが強いことが分かります。それが気に入っていたのですが、アルシュのナチュラルホワイトの何とも言えない色味は唯一無二。
2024年5月16日 少し訂正します。
紙の面積が大きいものを、明るい場所で見るとかなりピンク味が強いなーーと感じました。でも室内や薄暗い場所で見るとやっぱり少しグレーも私は感じます。どんな風に見ても美しいことに変わりはないのですが、見る環境でここまで印象が変わってしまうとかなり作品を選ぶような気がしました。
うっとり幸せな気持ちも束の間。普段使っている紙の2倍以上の値段がするのです。750×1050mmの特大判で1枚3,960円!これも多分少し前なら2,000円台後半か3,000円ちょっとで買えたのではないかと思いますが、それでもまぁちょっと無理。一応作品の価格の範囲というのは決めているので、その予算内で作るとするとかなり無理。でもいつかいつかという夢ができました。
一昨年から和紙も使うようになり、その際にもいろいろな紙を試したので、できればそのページも作りたいと思いページタイトルに「(洋紙)」と入れました。またこちらも気長に作っていけたらと思っています。銅版画に使える和紙にご興味ありましたら、アワガミファクトリーオンラインショップが品揃え豊富でおすすめです。サンプラーも出してくださっているので紙探しにはとても有り難い和紙屋さんです。
(この下の画像の刷り比べは、どの紙も13時間湿らせ、シャルボネール社のカーボンブラックで刷ったものです。)
以前制作工程の腐食のページにこの方法を載せていたのですが、あまり表立って言うようなことではないような、邪道が過ぎるのではないかと思い消していました。でもやっぱりまた最近この、腐食液をバットになみなみ注がず、必要量だけ取り出して刷毛で塗り続ける方法にしています。
良いところ
・常に新しい液が使えて、腐食時間が少なくて済む。
・常に刷毛で塗り続けることで金属屑がたまることがなく、腐食バットの中で版面を下にして浸すのと同じ効果を得られる。
・腐食液の状態が毎回同じ(毎回新しい)なので、腐食速度を左右する要素が気温(=腐食液の温度)だけになる。
・大きなバットに入れなくて良く、大きな版でも気軽に腐食できる。
・バットから引き上げる際に版に付いてくる余分な液が大幅に減る。飛散しない。
・全面を均一に腐食しないことも可能。強く腐食させるところと弱くするところ、筆跡を残したり残さなかったり、一度の腐食で表情を出せる。
不便なところ
・絶えず塗り続けるので、腐食の合間に別の作業ができない。長時間腐食はつらい。
・ソフトグランドには使えない。
良いことばかりの感じがして、最近はずっとこの方法でやっています。特に古くなってきた液の腐食時間の読みにくさと廃液処理問題から解放されたのはとても大きいです。昨年作った'stitches'シリーズのように60〜100分腐食するものは、液が新しいからといっても30分以上はかかりそうで、どうしたものかと考えています。深ーい腐食ってきれいなんです。
もともと安くはない銅版画の材料。年々じわじわ値上げしてるなーとは思っていましたが、この1年2年数段飛ばしで上がったような気がします。いつもある程度まとめて購入するので、より金額の大きさが刺さります。昨年末画材屋さんで本当に膝から崩れ落ちました。削りようのない最低限の材料、銅板と紙が信じられないくらい高い…もう銅版画続けられないかもしれないと初めて思いました。作るのが嫌になって版画をやめることって人生であるのかなぁと考えたことはあったけど、材料が買えないという理由で終わることもあり得るのかと。
この先値段が下がるというのは考えにくく、銅板以外の素材も検討しないとと思い、紙版画や樹脂板での制作を試みています。どちらも腐食はできないので技法は限られますが、コラグラフやカーボランダムなども取り入れられたら幅は広がるかもしれません。また制作工程としてもあげていく予定です。気長にお待ちいただければ幸いです。その前に銅版で作っておきたいものがあるので、その習作を。
数年前、横須賀美術館で開催された「嶋田しづ・磯見輝夫展」で忘れられない作品に出会いました。お二方にゆかりのある作家ということだったか、横須賀にゆかりのある作家ということだったか、現代の作家で若くして亡くなられたという紹介があったと思います(違ったらごめんなさい)。樹脂板を使ったドライポイントで作られており、それはそれは力強くきれいな作品でした。版も一緒に展示されていて、ずいぶん長い時間眺めていました。
あの体験があったから、今回樹脂板に挑戦しようとすぐに思えたのだと思います。世に大きく広く知られていない人や物事との思いがけない出会いは本当に素晴らしい財産で、いろいろな場面で私を助けてくれます。
ちなみに友人が教えてくれた木版画家磯見輝夫さん。私は木版画のことはあまり分かりませんが大好きで、作家ご本人によるギャラリートークも聞きに行きました。横須賀美術館、良い美術館です。好きなものは結構取ってあるので出品リストもあるかと思いましたが、残っているのはフライヤーだけでした。美術館の図書館に行けば調べられるのかな。
講師としてお世話になっている道工房の銅版画展が今年も始まりました。
前任の職員さんの時から参加されている方は銅版画歴5年目の年。複数の技法を使い、時々悩んで試行錯誤しながら、本当に素敵な作品を作り上げてくださいました。また、この一年で新しく加わってくださったみなさんも、とても初めてと思えない銅版画の魅力たっぷりの作品を作ってくださいました。
「作品を作る」ということを通して色々な方とご一緒させていただくたびに、どれだけ人の発想は自由で多様で謎に満ちているかを感じます。
この一年はこれまでより、より自由に銅版画を扱えるようになってきて表現の幅がぐんと広がったように思います。それに付いていこうと私は必死でした。長くやっているとどうしても考え方が固まってしまい、それを思い切って壊す必要がありました。もっと発想は自由に、でもそこにこれまでの経験を総動員して、という私にとってはとても難しい一年でした。同時にそれは最高に幸せな時間でもあります。参加者の皆さんには感謝感謝です。
たくさんの方に見ていただきたい展示です。桜も咲き始める最高の季節、ぜひ鎌倉にお出かけください。
道工房銅版画展
日時:2024年3月28日(木)〜4月16日(火)11:00〜16:00
場所:道ギャラリー(鎌倉市雪ノ下1-9-24 小池ビル1階)
公式サイト:kamakura-michi.com
instagram:@michi_koubou_24
'月桃'(げっとう)
ー沖縄や奄美大島、台湾などの温暖な地域に群生するショウガ科の植物。名前の由来は台湾の現地語で「ゲイタオ」と発音しているものに「月桃」と当て字をした説や、葉が三日月の形をしていて花が桃の実に似ているからという説などがある。沖縄では「サンニン」、大東島や八丈島では「ソウカ」、小笠原諸島では「ハナソウカ」とも呼ぶ。英名は'Shell ginger'。
昨年の個展の際、たくさんのお花をいただきました。秋という季節柄なのかそれぞれにきれいな「実」が入っていました。その中から今回は「月桃」を版画にしました。
色々無知を晒してお恥ずかしいですが、私はこの実についてもまったく知りませんでした。'globe thistle' ルリタマアザミを作った時にも名前が分からず「とげとげの花」で検索したら出てきた話を書きましたが、今回はなんと「紐で縛ったような形の実」で出てくるというミラクル。googleがすごいというより、そういうワードで書いていてくれた方がすごい。質感が八角に似てるような気がする、なんてところからも攻めたのですがダメでした。そりゃそうだ。
毎度同じようなことを言っていますが、月に桃なんて夢のように美しい名称。どうでも良い話ですが、どちらも自分の名前に入っていたら嬉しかった漢字。今回のタイトルは英名Shell gingerではなく月桃にしました。
いただいたお花はドライにできるものはドライにして、飾ったり観察したりして楽しんでいます。本当にありがとうございました。他にも版画にしたいものがあるのでまた取り掛かりたいと思います。
(作品サイズ: 4.5×4.5cm / エッチング、アクアチント、雁皮刷り)
大正から昭和に作られたプレス成型によるグラスが大好きでまたたくさん並べました。一つのグラスを色々な角度で色々な光の下で。
かき氷を盛るために作られ「氷コップ」と呼ばれています。このガラスの中にかき氷なんて夢のような光景だし、「氷コップ」なんてうっとりするような名称。
海外の公募展に出品する際に英訳で悩みたくないというのが始まりで、タイトルは意味を込めない極力シンプルなものにするのが私の勝手な決まり事になっています。多分それだけ言葉にもこだわってしまうということで、今回も「氷コップ」の響きの美しさは他に変えられない!とまで思い入れてしまったのでタイトルには使わず、'dessert dish(es)'にしました。...もう少し親切に伝えようと思うとvintageとかglassという単語を入れないといけない気もするのですが...タイトル書くスペースも狭いしなんて雑な理由で...そこ削ってしまった良かったのかな。
他にも色々呼び方があるようで、'ice cream dish(cup)'、'sherbet glass'、'sundae cup(bowl)' なんていうものがありました。シャーベットもきれい。
背景を水彩っぽいグレーにするのが今年の私の流行りになりそうです。(写真が小さくて細部がお伝えできていないかもしれずごめんなさい。トップページのトップ画像をこれに変えていますので、よろしければご覧ください。来月には作品一覧に掲載します。)
'dessert dishes'(写真上)36.5×40cm(額サイズ60角) / エッチング、アクアチント、雁皮刷り
'dessert dish#1'(写真下左もしくは一番目)9×9cm(額サイズ25角) / エッチング、アクアチント、雁皮刷り
'dessert dish#2'(写真下右もしくは二番目)9×9cm(額サイズ25角) / エッチング、アクアチント、雁皮刷り
アクアチントが上手くいかないなという時期があり、その時色々調べながらテストプレートを作ったので覚書として残しておこうと思います。(腐食液新品、気温5-10℃)
散布する松ヤニの量はどれくらいが適当なのか、動画やブログを上げてくれている世界中の版画家さんたちの手元と版をひたすら眺めていました。
そんな中で出会った一つのブログ記事。散布する量=松ヤニが版を覆う率(coverage)を変えながらチャートを作り丁寧に解説されていて、それがとても面白かったので、私もやってみることにしました。
時間差と重ねる回数で濃さを調節していくというチャートは私も作ったことがあるのですが(「アクアチントー腐食時間と重ねる回数」)、それは適切な散布量が前提となります。真っ黒の面を作ろうと思った時、私が適切と思っていた量はここに作った画像の「coverage80-90%」。それ以上の量を撒こうとしたことはあっても、それ以下、例えば「coverage 40-50%」=版面の半分くらいしか松ヤニで覆われていない状態で腐食しようと考えたこともありませんでした。
40-50%で腐食が長くなるとディープエッチングになってしまい、広く抜けてしまいます(上の画像のcoverage40-50%の10mがそれになりかけた状態。抜けを作りたい時にはこの量がきれい)。でも時間を調節して腐食するとアクアチント特有のポツポツとした孔が少なくより黒い面が得られました。
80-90%を数回繰り返せばきれいな面が作れます。多分それで良いんです。でもその繰り返しの際に散布量を変えることで、今までより深い黒の面ができたように感じました。ただその理屈がまだ上手く理解できていません。溝の形が複雑になったからなのか、と想像したりしていますが...。
ちなみにこの時上手くいかなかったのは腐食液が古過ぎたのも一因だったと思います。処理が大変なので新しい液を足すこともなく、長い長い時間使ってきてドロドロで、気温が下がった日には信じられないくらい腐食が遅い!そこから腐食の方法も変えたので、また後日そのことについて書きたいと思います。
ずいぶん前に制作工程に「黒インク」のページを作って加筆するようなことを言っていたのですが...
上の写真のように缶やチューブから出した段階での見た目は結構違うのですが、下の画像のように、黒い面が多くはない絵では刷った結果にそんなに違いがありません。並べて見ないと分からないし、少し暗いところで見ると並べても分からないし、そもそも並べ見たりしない!
私が楽しいということ以外に特に意味のない話になってきしてしまい、私自身も時間を使うならここじゃなかったかなという感想もあり、「黒インク」のページはこのまま終わりにしたいと思います。
顔料から調合すればその割合によって作品の雰囲気が大きく変わり、きっと作家性もすごく出るのだと思います。メゾチントや、アクアチントが画面の多くを占める作品では市販のインクでも使い分けたり、混ぜたりする意味は多いにあると思っています。ただ、そこまでこだわらなくても、販売されている完璧に完成されたインクを使えば、どんなものもきれいに仕上がるのだと思いました。使いやすさ拭き取りやすさで選ぶとしたら、55985以外ならどれでも、Carbon Blackは特に素晴らしく最強だと思います。...という感じです。
シャルボネ公式サイト(CHARBONNRL Intaglio Etching Ink)にきれいな色見本が掲載されています。
制作工程「基本の刷り 前半」に「紙を使って拭き取る」を追加しました。
最後にインクの油分を拭き取る工程では紙を使用していましたが、寒冷紗だと上手くいかない場合は、最初から紙を使うと拭き取り過ぎてしまうことが少ないかなと思い、今回加筆しました。
一番使いやすかったタウンページも最近手に入れるのが難しくなったので、新聞紙やわら半紙を使っています。これでも十分スムーズに拭き取ることができます。意識することは寒冷紗と同じで、とにかく少しずつ少しずつ丁寧に根気よく。
写真とともに工程を掲載しましたので参考にしていただければ幸いです。想像以上にしわしわの手でお見苦しい限り。ご了承ください。
海外の作家さんがあげている動画など見ていると、特に松ヤニを使う際にしっかりしたマスクをしている方が多く、なんとなくのマスクでお茶を濁してた私も防塵マスク防毒マスクを使い始めました。これはこれで使用上の注意がありますが、圧倒的に快適。特に大量の黒ニスを使用する場合など、頭痛や吐き気なく作業ができます。没頭するとつい忘れがちな健康。第一。早い段階からぜひ使ってください。
「ハンドメイド・クラフト・手仕事の通販iichi」の年内最後の期間限定クーポン企画が実施されます。期間は12月22日(金)〜24日(日)の3日間。3,000円以上(税込)のお買い物で7%割引(割引上限額 1,000円)となります。お正月のお買い物などにご活用ください。
ご利用について
期間:12月22日(金)〜12月24日(日)
※iichiに会員登録されている全てのお客さま、新規会員登録されたお客さまが対象です。
※クーポンを使用せずにお支払いを完了したお取引に、後から割引を適用させることはできません。
※1度のみご利用いただけます。
'Ice Skating Girl' and 'Ice Skating Boy'
スケーターズワルツにのせて、もみの木の周りを3人の子どもがスケートでくるくると回るかわいい木製のオルゴールから、今回は2つの人形を版画にしました。もう30年以上前、西ドイツ出張のお土産にもらったものです。
物を投げ合う姉妹喧嘩の流れ弾に度々当たり、人形ももみの木も折れ、瞬間接着剤で修理された跡が残ります。折れて付けたところがまた折れての繰り返しだったので、人形たちは全員体が傾いでしまっていて、くるくる回る途中、もみの木にパンチをするような形で腕が引っかかりしばしば動きが止まります。
本当にかわいくて素敵なオルゴールなのですが、激しい姉妹喧嘩、ほとんどは私が妹たちを震撼させていた日々が思い出されてしまうオルゴールです。本当に申し訳ない。もう一体の女の子の人形もちゃんといるので、追々版画にしたいと思います。
昔々、鎌倉の小町通り入ってすぐ辺りのビルの2階にクリスマスツリーやオーナメント専門のお店があって、年に1回2回連れてきてもらって1つ2つ買ってもらうのが楽しみでした。その時のオーナメントの数々を今でもクリスマスに飾ります。一年で一番ワクワクする大好きな季節に、今年もクリスマスの版画が作れたことを幸せに思います。
(このお店の名前は「プリンツヒェンガルテン(PrinzchenGarten)」鎌倉店。閉店したのは2007年だそうです。ブログに残してくださった方々、ありがとうございます。ほんとすごいなインターネット。)
Ice Skating Girl 作品サイズ 5.5×9cm / エッチング、アクアチント、雁皮刷り
Ice Skating Boy 作品サイズ 5.5×8.7cm / エッチング、アクアチント、雁皮刷り