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PRINTART 2025
昨年「モノクローム展2024」に出展させていただいたギャラリー国立にて開催される版画の展示に、最近の作品2点を出品させていただきます。私のように版画ばかり求めてあちこち放浪されている方にはぜひ、これから版画の世界に入ってみようかと思っている方にもぜひお越しいただきたい企画展です。
ギャラリーのYoutubeチャンネルも面白いです。今年は桜の開花はどうなるのでしょう。お花見には少し遅いのかもしれませんが、きっと陽気は良いはず。お近くにお越しの際は、実物をご覧いただけると嬉しいです。
出品作品:'candy dishes #1' , 'compote#1'
日時:2025年4月3日(木)〜4月13日(火)12:00〜19:00 (最終日16:00まで)
場所:ギャラリー国立 (東京都国立市中1-9-18 NTC高橋ビル1F2F)
アクセス:JR国立駅 下車徒歩3分
公式サイト:ギャラリー国立
instagram:@gallery_kunitachi
Youtube:ギャラリー国立 Gallery Kunitachi
第7回春の10×10 版画展
第3回(2021年)、第4回(2022年)と参加させていただいた10×10 版画展。回を重ねるごとに人気の展示となり、春と秋の年2回開催になっています。それでも最近出展が難しくなりつつありましたが、また展示していただけることになりました。嬉しい! 作品購入後はそのままお持ち帰りいただけます。版画ばかりたくさん集まる展示、やっぱりものすごく楽しみです。
春の銀座散策にお出かけの際は、ぜひぜひお立ち寄りいただけたら幸いです。私は出品できませんが、秋の10×10版画展は10月20日 - 26日に開催されますので、こちらもぜひご覧ください。
出品作品:'dessert dish #1' 'dessert dish #2' 'Liquere glass #1' 'dessert dish #3'
日時:2025年3月31日(月)〜4月6日(日)12:00〜19:00 (最終日17:00まで)
場所:銀座中央ギャラリー (東京都中央区銀座1丁目9-8 奥野ビル4階411号室)
アクセス:東京メトロ有楽町線銀座一丁目駅10番出口より徒歩1分 / 東京メトロ銀座線銀座駅A13から徒歩5分 / JR有楽町駅京橋口より徒歩7分
公式サイト:銀座中央ギャラリー
instagram:@ginzachuogallery
' dessert dish#3 '
最近カーボランダムばかりで、もしかしたら銅版画から離れてしまうかも......と少し寂しさやら危機感を感じたりしていましたが、銅版画じゃなきゃだめだと思うものがちゃんとあって良かったと安心しました。2つを使い分けられるくらいに確立できてきているのかなと思うと嬉しくもあります。
ガラスの小さな平皿。まるでレースのような模様は繊細な線を出せる銅版画が合っています。ちょっと和っぽい、鞠のような飴を並べてみたりもしたのですが、最近ずっと登場しているこのキャンディーじゃないとだめ!と強く思いました。本当にガラスによく似合う。
この数ヶ月この他にも絵になるお菓子はないかと色々試していました。食べ物をモデルにして困るのは、終わった後食べざるを得ないというか食べたくなって全部食べてしまうこと。だんだん食べること前提で、自分の食べたいものを買ってしまい、すっかり目的を見失いました。そして久しぶりに虫歯ができてしまうというとんでもない結末。本当に本当に反省しました。お菓子入りの作品を見るたびに、私は虫歯を思い出すのだろうと思います。情けない。
(作品サイズ 9×9cm / エッチング アクアチント 雁皮刷り)
onlineshop — 銅版画 ' dessert dish#3 '(額装)
' いちじく'
— 西アジアからアラビア半島南部原産のクワ科イチジク属の落葉高木。花のう(果実)の内部に花がびっしりと咲き、その後熟して実になる。旧約聖書ではアダムとイブがいちじくの葉で体を隠す腰ミノを作ったとされている。日本には1600年頃ポルトガルから伝えられた。花を咲かせず実をつけるように見えることから「無花果」とも書く。
いちじくの季節がくるたびに、何とかこれを版画にできないかなと思って多分もう5年は経っていると思います。夢のように淡い味と色、湿度のあるような綿菓子のよう。この独特な果物に魅了されて作品のモチーフにもしている人も多いと思います。どうしても黒一色でこの独特な形を捉えたくて、でもいちじくの旬はあまりに短くて、考えがまとまる前にいつもいちじくの季節が終わってしまいます。これは昨年の夏の終わりに、今度こそと作り始めたもの。銅版画で上手くいかなかったけど、カーボランダムならできるんじゃないかと思い、やっぱり!これはいい! と今回完成となりました。
私の作品の中ではサイズ的にミニ版画に入るので、ミニ額に入れるのが当初の計画でしたが、何か違う... 色々迷いましたが、ちゃんとマット付きでしっかり余白を取って20角の額に入れました。
作品として掲載するには季節外れ甚だしいですね。載せてみて今更思いました。
(作品サイズ 8×8.5cm / カーボランダム 雁皮刷り)
onlineshop — 銅版画 ' いちじく '(額装)
前回ご紹介した作品に使用している技法「カーボランダム」は「コラグラフ」の一種になります。(関連するページ:2024年8月17日の記事、制作工程ーその他の技法 カーボランダム)
「コラグラフ」は、ギリシャ語で「接着する」という意味の「collo / kollo」に由来する「コラージュ( Collage) 」と「グラフィック (Graphic) 」を合わせた言葉と言われています。
木や紙や金属の板に布や紙を直接貼ったり、ボンドやメディウムを塗って盛り上がった部分を作り(「カーボランダム」は更にそこに砂や炭化ケイ素を撒いてざらざらな面や線を作ります)、そこにインクをのせて刷り取ります。上の図の通り、凹版画も凸版画も刃物等を使って凹んだところを作りますが、コラグラフは凸部を作ります。
一番よく使われる版形式による分類(凸版、凹版、平版、孔版)のどこに入るのか調べていると、色々な記述があります。それぞれ着目するところによって微妙な違いがあるようです。下にいくつか引用させていただきます。
版形式の分類自体は、これは私の理解の仕方ですが、インクのとどまる場所に着目していると思っているので、そうなると凸版画の中に分類されるのだと思います。ただ作っている者の感想として、第5の分類作ってもいいんじゃない?っていうくらい仕組みが違うものにも感じます。
ちなみに凸版画でも凹部にインクを詰めて刷ることもありますし、凹版画でも凹部ではない部分にインクをのせて刷ることがあります。ただメインの方法というよりは、あくまでその版種の中のその他の技法の一つとして扱われていると思います。コラグラフも作り方によっては凹部にインクを詰めても良いわけですが、凸部にインクをのせる方が多いだろうなと思います。
版画も本当に作家の数だけやり方があって、どれだけでも広がっていけるものです。展示でご質問いただいた時や、キャプションを付ける時以外、技法について意識しているわけではありませんが、知っていると面白いこともあるかと思い、まとめてみることにしました。こんなこと言ってる人がいたなと、版画鑑賞の際にでもうっすら思い出していただけたら幸いです。
コログラフ(原文ママ)は、コラージュ版画の意。アメリカの版画家グレン・アルプの考案。合版、厚紙などの版面に特殊な接着剤、糊状塗料、粉末剤などを用い、紙、布、金属板、合成樹脂板などを接着コラージュしたり、筆で描いたり粉をふりかけたりしながら版を作る。
主として凹版形式に適した版画である。印刷は凹版プレスによるが、版画の凸部も重要な効果として用いられる。(関野準一郎氏による)—吉田穂高 駒井哲郎 利根山光人 福井良之介『版画の技法』美術出版社 1968
コラグラフは、シナベニヤの合板、イラストボードの厚紙や金属板をベースプレートにして、紙、糸や布などを木工用ボンドで接着しながらイメージをつくり、アクリル描画材料であるメディウムやジェッソでコーティングし製版したものを、凹版及び凸版形式で印刷する版画技法であると一般的に定義できる。
—武蔵篤彦「コラグラフ版画技法の現在」京都精華大学紀要 第三十六号 (2010年) p289
版画は版の仕組みから4つの版種に分類される。この内凹版、凸版は何らかの手法により版材の表面に凹部または凸部を成形する。凹部を成形する版種の代表的なものが木版画とエッチング(腐食銅版画)である。(中略)凸部を成形する技法で代表的なものが紙版画とその発展形であるコラグラフである。
—山口雅英「エンボス加工製版による紙版画技法の研究」造形学研究所報 二〇一六年十二号 (2016年) p7
木版画をやっている方がこの技法を併用する事が多いです。(中略)「4つのポピュラーな版画」の項目でも、コラグラフは木版画のジャンルの中に説明をしました。
もちろん、「コラグラフ=版材に色々な素材を貼り付けたり、塗ったりして作る版画」なのですから。版材は木に限らなくても良いし、版の材料を工夫すれば銅版プレスでも刷れるわけです。—版画HANGA百科事典 コラグラフ 版画のミクロコスモス
'compote #1'
版画ゆうびんより大きなサイズでは、10年以上ぶりの長方形。'cnady dishes #1' も微妙に正方形ではなかったのですが、こちらは正真正銘、私にとっては超変形。このサイズを作らなきゃいけなくて作ったわけではなく、これを作りたい!と思ってできたので、ちょっとびっくりです。今まで思いもしなかった思い切りな長方形。動きが出た感じがして気に入っています。
お砂糖のシロップで果物を煮て作る「コンポート」を入れるためのガラスの器。この手の脚付きのお皿は基本的に 'compote'(コンポート)と呼ばれているようです。美しいカットのガラスに、きれいな色の果物のシロップ煮が盛り付けられているなんて、なんて夢のよう。今回は最近お気に入りのフルーツキャンディーと組み合わせたかったので、このようになりました。
小さいサイズの版画で作った「みかんあめ」( 2025年1月6日の記事 )で付けたようなきれいで美味しそうな色が出せたなら、このお皿に夢のようなシロップ漬けを盛り付けられるかもしれないと、夢のように思いながら、まるで上手くいかず暗中模索です。こうしたいなと思ってから形になるまで、年単位の時間がかかったりすることもあるので、忘れた頃に登場するかもしれません。
(作品サイズ 12×24cm / カーボランダム 雁皮刷り)
onlineshop — 銅版画 'compote #1'(額装)
'candy dishes #1'
小さな砂糖菓子を入れるための蓋付き脚付きのガラスの器と、フルーツキャンディー。
プレス機から上げた瞬間、自分で言うのは変なのですが、何もかもが「なんてすてきなんだ!!」と思い、しばらくドキドキしてしまいました。ずっと試みていた新しい方法で思った以上のものができた喜びと安堵もありました。
銅版画の繊細で鋭いけどしなやかな線、硬質で柔らかい面が大好きで作ってきました。今度のこの技法は少し違って、線も面もざっくりしていてどこか朧げです。一方で使用している砂ががっちりとインクを掴んで、分厚く重厚な黒を紙に乗せてくれます。本当にすてきな技法に出会えたと感じます。技法についてはまた後日書きたいと思います。
制作中、私は勝手に「キャンディーポット」と呼んでいて、制作メモにも試し刷りにも 'candy pot' としつこく書いていました。何といっても「ポット」の響きが良いし、「キャンディー」というこれまたかわいい言葉とぴったり合う!良い! と思っていました。でもそう呼んでいる人はどこにもおらず、一般的な言葉をタイトルにしたいと思っているので、どこでも通じる 'candy dish' にすることにしました。昨年いくつか作った 'dessert dish' からの流れもあるので、これはこれで気に入っています。
フランス語のボンボニエール(Bonbonniére:Bonbonは砂糖菓子の意)という呼び方も、日本でも広く使われていますが、洒落過ぎていて気恥ずかしくなってしまうのでやめました。本当に自分でもよくわからない感覚的なものです。
もう一回り大きな額に入れて、もっと周りに空間を作るのが理想的だと思うのですが、額の在庫をそんなに持てないので、まずはよく使っている40角に入れています。大きめの額に贅沢にいつか入れてみたいと思っています。
(作品サイズ 23.5×25.5cm / カーボランダム、雁皮刷り)
onlineshop — 銅版画 'candy dishes #1'(額装)
色々と試作をしていた樹脂板、紙版。少し大きめの作品としてようやく出せるものになりました。作品については額装ができましたら、またこちらでご紹介します。
樹脂板も色々ありますが、その中でもホームセンターで良さそうと思ったもの、塩ビ板(PVC:Polyvinyl Chloride=ポリ塩化ビニル)、PET板(Polyethylene Terephthalate=ポリエチレンテレフタラート)を現在使っています。値段が銅板の10分の1かそれ以下であることが一番の魅力ですが、銅板より簡単に切断できるので、今まで作ってこなかったようなサイズに好きなように切って使えるのが楽しみです。
PVCとPETは特に薬品にもよく耐え、熱にも決して弱くなく、そこが私の版画作品に使うのに大切なポイントとなりました。ある程度のエディションは刷りたいので、インクを拭き取る有機溶剤を繰り返し使っても変化がないのは有り難いです。また、大きな版ではインク詰めの際、やはり少しでも版を温めたいというのがあり、銅版の時より低い温度でも良いので熱に耐えてくれるのも大きいです。刷りの際に紙を使うと傷が付く感じがしたので、寒冷紗を使っています。冬場は静電気の影響で困ったこともあるので、ここは対策が必要だと思いました。
紙版は紙版画用に販売されているツルツルした面を持つ、牛乳パックの裏のような紙を使用しました。私は繰り返し大量の水を吹きかける雁皮刷りを使いたいと思う作品が多いので、そういう作品には使えませんが、刷り上がりはとてもきれいで、上手く刷れば思っていた以上にたくさん刷れます。
何といっても銅板に比べて安価なので気軽に作り直しや試作、習作ができるというのが本当に嬉しいです。私はもともと作り直しが多いので、失敗したら数千円飛ぶと思うと変に緊張したりしていました。何度でも試行錯誤できる、色々なパターンを考えてそれを実際やってみることができるのは、とても楽しいです。