ドライポイントとエッチング

銅版画には大きく分けて「直接法(直刻法)」と「間接法(腐食法)」があります。
「直接法」は、直接ニードルなどを使って銅版に描画をすることによってインクを詰める溝(凹部)を作ります。「間接法」では、金属を溶かす「腐食液」に銅版を浸けて溝を作ります。
直接法ドライポイント、間接法の基本エッチングについて簡単に整理してみました。

ドライポイント

「直接法(直刻法)」の中でも一番シンプルな技法がドライポイントです。銅板に描くだけ。
力の入れ具合だけで色々な表情の線を作り出せますし、何と言っても「にじみ」が特徴的でとてもきれいです。
ただ銅版に作った溝にインクが入るだけでなく、強く引っ掻いたことでできる金属の「まくれ(バー)」にもインクが詰まることで、この「にじみ」ができます。
ニードルだけでなく、ドライバーや釘、カッターや裁縫用の目打ちなども使えます。「まくれ」をなくしたいところは、後からスクレーパーで削り取ることができます。

関連ページ 「ドライポイント」

ドライポイント図説

直接法にはドライポイントの他に、「エングレーヴィング」「メゾチント」があります。

エングレーヴィング
銅版画の技法の中でも最も古い。15世紀中頃から始められ、それ以来ほとんど変わらずに現在まで使われている。ビュランという一種の彫刻刀で、版に直接線を彫る。よく砥がれたビュランは版面をV字に彫り取るため、印刷で写し取られたインクは、紙の上で鋭角的に盛り上がり、大変シャープな素晴らしい線になる。この線は他のどんな技法によっても表せない、エングレーヴィング独自のものだ。
この技法では、繊細な線から力強い線まで表せるが、描画と彫りを同時に行うためビュランの扱いに熟練が必要だ。また、無理なくシャープに版を彫り取るためにビュランの研磨が重要なポイントになってくる。

メゾチント
メゾチントはビロードのような柔らかい黒の濃淡が特徴だ。まず表面に細かい凹みとまくれ(バー)を作る。この状態では凹みにインクが溜まり黒い面になる。次に表したい部分のまくれを削ると、そこはインクの溜まる量が少なくなるので、白く浮き上がる。このようにして、画面に黒から白までの階調を作り出し、形を表していく。

ー「みみずくアート・シリーズ『銅版画ノート』」(視覚デザイン研究所編)

エッチング

「腐食法」の一番の基本「エッチング」では、まず防食剤を塗布した銅版にニードルなどを使って描画し、銅を露出させます。これを腐食液に入れると露出した部分だけ銅が溶け、溝(凹部)が作られます。その溝にインクを詰めて刷り取ります。
腐食液には「硝酸」と「塩化第二鉄」があります。「硝酸」は腐食する際に有毒なガスが発生し危険ということで、設備の整った工房以外、ご自宅などで制作するには「塩化第二鉄」が良いです。

関連ページ 「グランドを引く」「腐食する」

エッチングの仕組み

線の強弱

ドライポイントの線は力の入れ具合や使う道具で線の強弱を出しますが、エッチングでの線の強弱は、腐食時間の差で作ります。
腐食液に浸けて出して加筆してまた浸けて...を繰り返しても良いですし、一気に描いて浸けて出して防食剤でマスキングしてまた浸けて...でも良いですし、作りながら両方が混ざっていることもあります。
季節によって腐食の進みが多少変わる(大雑把に言うと夏は早く、冬は遅い)ことも考えながら、どこをどれくらいの時間浸けるか、スケッチの時に計画しておくと良いと思います。

エッチング線の強弱

面を作る

広い面をそのまま腐食すると真っ黒になるかと思いきや、インクが残るのはエッジの部分だけで、内側は薄いグレートーンになります。これを「ディープエッチング」と言い、間接法(腐食法)の技法の一つのバリエーションです。腐食する時間が長いほどくっきりと鋭い輪郭ができます。
広い面を真っ黒にするためには「アクアチント」という技法を使います。

関連ページ 「ディープエッチング」「アクアチント」「色々な線と面」

ディープエッチング図説
ディープエッチング作例

金属の板一枚で、硬く強い線、柔らかく滲んだ線、漆黒の面、淡く奥へ深い面、色々な姿を表すことができます。本当に楽しい世界。銅版画。一つ一つの技法の基本を身に付けつつ、色々な方法、効果を知って融合させながら作品を作るのも楽しいです。美術館などで版画を観る時に技法も気にしてみると、違った面白さが味わえると思います。