The Making of MUNAKATA

棟方志功展「鷺畷(さぎなわて)の柵」

美術にあまり興味のない人との会話で版画をやっているという話になると、同年代以上には「棟方志功みたいな?」と言われる率が高く、人々の脳裏にどれだけ強く染み付いているのか、キャラクター的な強さもあるのかもしれませんが、やっぱりすごいんだな〜と毎回思います。

棟方志功には私はそこまでの興味はなかったのですが、昨年かその前の年か何かの雑誌で見た作品、背景にたくさんの朝顔が彫られ墨一色で刷られている作品に強烈に惹かれ、すっかり注目するようになりました。
興味のないところから、この展覧会絶対行く!になるまでになるのだから、ペラペラとめくる雑誌も高速で流れていくSNSの情報も、ぼんやり見ていることの大事さを思いました。
チラシやグッズもかっこよくて、デザイン、ビジュアルの力も感じました。ちなみにこの展覧会、写真や映像以外、作品は撮影ができます。すごい。

今年観たいと思っていた大型展覧会、デイヴィッド・ホックニー展と棟方志功展、どちらも行って良かった、満足でした。それだけで十分幸せなのですが、すごく興味があるわけじゃないけどちょっと面白そうだから観に行ってみるか、な感じで出掛けられるようになりたいと思ったりしました。目玉飛び出るくらいかっぴらいて観る(疲れる)のとは違う、自分の余白に染み込んでくるように、作品と出会ったり向き合うことができる、そういう人になれるよう過ごしていきたいと思います。

生誕120年棟方志功展 メイキング・オブ・ムナカタ
日時:2023年10月16日(金)〜12月3日(日)10:00〜18:00(月曜休館)
場所:東京国立近代美術館
観覧料:1,800円

棟方志功展
国立近代美術館棟方志功展

Rose

2023年10月版画ゆうびん'Rose'

'Rose'

二度と会えない別れがこれからどれだけあるのか...年を重ねるごとに否応なく実感させられます。その別れの悲しみの中にいる友人知人の姿もよく見るようになり、そんな時でも贈りたいと思えるもの、飾りたいものを作りたいと思いました。花束にしようか一輪にしようか。密度の濃い余白を広く取りたかったので一輪に。

個展期間中、自分の作品に囲まれる時間を長く過ごし、見渡しながら思ったことは、私はとことん好きなものしか作らないし鼻歌歌ってご機嫌に作っていたいだけなんだということ。昔話の登場人物だったら最後に痛い目に遭う側の奴、悪事は働かなくても能天気の度が過ぎて事故に遭う奴みたいな感じ。そんな私でもこんな真面目な顔して作るのだなと思いました。

銅版画で作る漆黒が何より好きなのですが、これを何で出すかで雰囲気が変わります。アクアチントかメゾチント風ドライポイントか。本物のメゾチントでバラが作れたらきっと素晴らしくきれいだけど、表に出すにはまだまだ技術が足りなすぎる。いつかメゾチントバーションも。
ずいぶん用途を限定したような書き方になってしまいましたが、どのようにも使っていただければ幸いです。

(版画のサイズ 5.5×5.5cm / アクアチント、雁皮刷り)

2023年10月版画ゆうびん'Rose'
'アクアチント版

見渡す限りの版画

アワガミ国際ミニプリント展

今年初めて出品したアワガミ国際ミニプリント展は、応募作品の全てが展示されるという、とても魅力的な特徴があります。審査自体が画像で行われることも多い中、全作品公開されるなんて!
今年は1600点以上の版画が並ぶということで、版画好きはいてもたってもいられず徳島へ、日帰りで行ってきました。

徳島駅から電車で約1時間、阿波山川駅から歩いて15分くらい。第2会場いんべアートスペースに入ると見渡す限りの版画。世界各国から、デジタル含むあらゆる版種、色々な和紙を使って作られた版画が一面に飾られています。人の捉えるものや描くもの、それらの手法の何と多様なことか。決まった人の作品を見に行くことはあっても、たくさんの人の作品を一挙に見たのは初めてで、こんな夢みたいな空間が他にあるだろうか...時間を忘れて見入ってしまいました。更に少し先にある阿波和紙伝統産業会館が第1会場になっていて、入選作品と受賞作品が展示されていました。

すべての作品にQRコードがついていて、技法や使用している紙、販売価格が見られるようになっています。そんなに出品料高くないのに、ここまで丁寧に展示してくださって...本当にすごい公募展だと思います。感謝と敬意。アワガミファクトリーのインスタでも作品の数々が紹介されていますのでぜひ。

アワガミファクトリーinstagram:@awagamifactory_jp

徳島駅に戻って少し時間があったので、ダッシュで眉山(びざん)山頂へ。徳島の街と、遠くに淡路島と紀伊半島。素晴らしい眺め。旅気分の高揚でと言っては失礼ですが、ご当地キャラすだちくんキーホルダーをつい買ってしまいました。日帰りなんてもったいないのですが、それでも本当に本当に行って良かった。次行く機会があったら阿波踊りミュージアムと渦潮見て、特急うずしおで高松の友達に会いに行きたいと思います。

飛行機から見えた富士山
アワガミ国際ミニプリント展
アワガミ国際ミニプリント展
アワガミ国際ミニプリント展
徳島駅から眉山へ
徳島県眉山

越前からの便り

港町旧道商店街フライヤー
「ランデヴー。」DM

版画ゆうびん舎の創設者で私の版画の師匠で大切な友達であるおさのなおこさん。3年くらい前に福井に移り越前を盛り上げるために尽力されています。私はおさのさんから銅版画を教わりましたが、彼女自身は木版画作品の方が多く、私はその作品が大好きです。この「港町旧道商店街」の楽しい絵も。二人展「ランデヴー。」のうっとりするようなDMも。

福井県、少し遠くて私自身3年経ってもまだ行けずにいますが、北陸地方にお住まいの方、ご旅行に行かれる方はぜひ越前へ行かれてみてください。いつも送っていただく越前の写真は、海がきらきらしていて本当に美しいのです。意外と雪が少ないそうなので冬の旅行にも安心して行けそう。海の幸は絶対美味しいに決まってる。来年には北陸新幹線が福井まで延びるということで、近くなるのかな。

おさのなおこ+わだときわ二人展『ランデヴー。』
日にち:2023年11月11日(土)〜11月26日(土)月曜休廊
時間:平日16:00〜21:00 土日祝13:00〜18:00
場所:夕方画廊 分室ニホ(福井県福井市文京2-8-8 文京三谷ヴィラ2階 GoogleMap
instagram:@bunshitsu_niho  

越前海岸盛り上げ隊公式ウェブサイト https://discoverechizen.com

個展終わりました

2023年個展

10月5日から始まった個展が昨日無事終了しました。今回も開催してくださった道工房のみなさまと、設営をしてくださった宍戸さんに心から感謝申し上げます。普段「作る」のは一人の作業なので、たくさんの方の力で一つのものが作り上げられていく様子に、いつも新鮮に感動してしまいます。
また、たくさんの方に足を運んでいただき、在廊中楽しい時間を過ごすことができました。展示は見てくださる方がいて始めて完成なのだと実感する日々でした。自分の作品についてお話したり、感想をいただいたりしながら新しく発見することがたくさんありました。ご覧くださったみなさまに、改めてお礼申し上げます。ありがとうございました。

2023年個展
2023年個展
2023年個展
2023年個展
2023年個展(お花)
2023年個展(版画ゆうびん)
2023年個展(刺し子)
2023年個展(帰り道の段葛)

ビルの小道

鎌倉小池ビル1階
鎌倉道ギャラリー

10月5日から無事個展が始まりました。その様子は後日また掲載したいと思います。在廊中の景色のことについて少し。

個展会場の道ギャラリーは、鎌倉の若宮大路沿いにある小池ビルという歴史あるビルの1階にあります。入り口から細く長く続く通路の突き当たり左がギャラリーで、正面が自家焙煎珈琲の玄さん、右に曲がると北条時房邸宅跡へ通り抜けることができます。
この通路が好きで、2年前も在廊中ずいぶん取り憑いて眺めていました。特に段葛と石灯籠が見えるのがお気に入りです。お隣から聞こえてくるカップの音、お喋りの声が静かに通り抜けていく素敵な空間です。

こうしたビルが他にもたくさんあるのだと思うのですが、特に用事もなく入って行く勇気がなく、他を知らないままです。

鎌倉小池ビル1階
鎌倉道ギャラリー

続々額装

'shells'(ミニ額)
'shells'(ミニ額)

とても美しい額に出会いました。漆喰の白壁のような、イタリアのどこかの島の家々の壁のような不思議な肌の感じにゴールドの縁。写真で上手く伝えられていないのですが、表面が平らではなく緩やかなぼこぼこがある、木製とは思えない不思議な形状なのです。お店で見つけた時は少し手が震えました。ちょっとはまり過ぎかなーと迷いましたが、ゴールドのインクを使って刷った'shells'を入れました。
下の写真の3枚目、手前にある黒っぽい額もシルバーや濃いブルーやグレーが入っているような微妙な色合いが素晴らしい額です。

人の目に触れてはじめて『作品』と思っているので、出品や展示の機会は一つ一つ本当に大切で、額装は見ていただくための最後の大事な作業です。ただ版画を作る時の細かさと全然違う、私の苦手な器用さが必要になるのでいつも苦労します。金具を締めた瞬間に入り込む塵、何なんですかね。

額装作業
ミニ額額装
ミニ額額装


個展のお知らせ

2023年たけだりょう銅版画展DM

2021年に続き道ギャラリーで個展をさせていただくこととなりました。通常の額装作品とミニ額もできるだけたくさん展示したいと思っています。21種類に増えた版画ゆうびんのための小さな版画も、すべてご覧いただけるように準備しています。
秋の連休の本当に良い時期に割り当てていただきました。どうぞ鎌倉散策にお出掛けの際はお立ち寄りください。

期間:10月5日(木)〜10日(火)11:00〜17:00(期間中休廊なし)
場所:道ギャラリー(鎌倉市雪の下1-9-24小池ビル1F)
アクセス:JR鎌倉駅下車徒歩8分。若宮大路沿いにある小池ビルのエントランスを入って、突き当たり左手にあります。
公式サイト:道ギャラリー

今後の展示のお知らせ

FEI PURO ART AWARD 入選作品展
日時:2023年9月9日(土)〜24日(日)10:00〜19:00(月曜休廊・最終日17:00まで)
場所:FEI ART MUSEUM YOKOHAMA(神奈川県横浜市神奈川区鶴屋町3-33-2 横浜鶴屋町ビル1F Google Map
出品作品:'balcony#5'
公式サイト:FEI PURO ART AWARD 入選作品展

アワガミ国際ミニプリント展2023
日時:2023年10月7日(土)〜11月12日(日)9:00〜17:00(月曜休館)
場所:阿波和紙伝統産業会館、いんべアートスペース(徳島県吉野川市山川町川東141 Google Map
共通入場料:一般300円、学生200円、小中学生150円
出品作品:'sun hat#2'(賞候補), 'Reindeer Christmas Wreath'
公式サイト:アワガミ国際ミニプリント展2023

たけだりょう銅版画展
日時:2023年10月5日(木)〜10月10日(水)11:00〜17:00(期間中休廊なし)
場所:道ギャラリー(神奈川県鎌倉市雪ノ下1-9-24小池ビル1F)
公式サイト:道ギャラリー

FEI PURO ART AWARD 2023
アワガミ国際ミニプリント展2023

版画用紙について

銅版画用紙「ハーネミューレ」6種サンプル

制作工程のページに銅版画で使用する紙のページを作っているのですが、少し時間がかかりそうなので、私が自分用にも教室用にも使っているハーネミューレとキャンソンエディションの色の種類を、ひとまずこちらに掲載したいと思います。できる限り見たままの色になるように撮影していますが、どうしても再現できていないところもあります。ご了承ください。何かの参考になれば幸いです。

サンプルくらいのサイズで比べて見てみると大した差ではないものも、作品としてある程度の大きさの紙として使うと雰囲気が全然違ったりします。一枚ずつ買って試してみると良いかなと思います。


銅版画で使用する紙は、「ハーネミューレ」「BFKリーブ」「ベランアルシュ」「アルデバラン」「ニューブレダン」「いづみN」「キャンソンエディション」などがあります。細かい線に最適なもの、多色刷りに適しているもの、雁皮刷りに適したもの、それぞれ特徴があります。詳細は後日制作工程のページに更新する予定です。

ハーネミューレ (Hahnemühle)(上写真)
HA5734:ナチュラルホワイト。150g/m²。他のナチュラルホワイトより白さを感じます。厚みはかなり薄いです。
HA5735:ナチュラルホワイト。300g/m²
HA5737:クリーム。300g/m²。写真より、より黄色味の強いクリーム色に思います。
HA5745:ホワイト。300g/m²。はっきりした白です。
HA5760:ナチュラルホワイト。300g/m²。他のナチュラルホワイトよりほんの少し黄色味があるように思います。
HA5761:ナチュラルホワイト。300g/m²。HA5735と同じ厚みで色もほとんど同じですが、こちらの方が「にじみ止め加工」が強く多色刷りに向いているそうです。HA5735の方がほんの少し白が強いように思います。

紙の上辺にロゴマークの鶏、下辺に「HAHNEMUHLE」のウォーターマーク(透かし)が入っています。この文字が正しく読める方が紙の表側ということらしいのですが、私は正しく読める方が裏と教わり、今もそのように使っています。私と同じように使われている方もいるし、そうじゃない方もいるという感じがします。

銅板画用紙「ハーネミューレ」ウォーターマーク
銅板画用紙「ハーネミューレ」ウォーターマーク

キャンソンエディション (Canson Edition)
色紙を使いたいと思った時に、こんなに良い紙はなかったのですが、ホワイトとアンティークホワイト以外は現在販売していないようです。

現在購入できるのは、ホワイトの320g/m²(下写真一番右)と250g/m²(右から2番目)、アンティークホワイト(250g/m²)(右から3番目)です。
アンティークホワイトは、サンプルくらいの小さな紙単体では、白と並べると違いが分かるかな〜くらいの限りなく白に近い軽い明るい、「アンティーク」風のほんの少しベージュを匂わせたようなホワイト。ただ大きめの作品を刷ってみると、真っ白との違いが分かります。雰囲気がずいぶん変わる、他にはない貴重な色の紙だと思います。

版画用紙「キャンソンエディション」色見本

夏の終わりの...

2023年夏の終わりの版画ゆうびん'shells'

'shells'
毎日のように35℃を超えるような夏になってから、極力外出を控えるのが夏の過ごし方になってしまい、当然海にもすっかり行かなくなってしまいました。気温が落ち着いて、浜辺が静かになった頃に貝集めに行きたいなと思いながら版画にしました。
今もまだまだ暑いですが、それでもちゃんと季節って進むんだなと思えるような風を、たまに感じられるようになってきました。夏が終わる寂しさみたいなものが昔はありましたが、最近は心底ほっとします。暑さ辛すぎです。

これまで年に4回の版画ゆうびんでしたが、もう少し頻度を上げて制作していきたいなと思っています。季節を感じるものもそうじゃないものも、色々作ってご紹介してまいりますので、お手に取っていただけたら幸いです。

(版画のサイズ 5.5×5.5cm / エッチング、アクアチント、雁皮刷り)

2023年夏の終わりの版画ゆうびん'shells'

とげとげの花

globe thistle

'globe thistle'
ーany of various plants of the genus Echinops having prickly leaves and dense globose heads of bluish flowers.
棘のある葉と青みがかった花が密に集まった球形の頭花を持つヒコダイ属の各種の植物の総称。(英ナビ!辞書)

日本語では瑠璃玉薊(ルリタマアザミ)。この花の名前が思い出せず、「とげとげ 花」と検索したら一発で出てきたので、すごい時代だなと改めてびっくりしました。漢字もまた美しい。
辞書を見ていると面白くて、'thistle'=アザミはスコットランドの国花で、「内側の苞(ほう)が悪天候などの前に自然と閉じるところからヨーロッパでは天候予知のため門口に植える」(GENIUS英和辞典)のだそうです。
' グミの実 ' の版画に一部銀色のインクを使ってから、その方法が気に入ってしまい、今回は金色に少し濃い目のセピアを混ぜた色を、一番右の一輪にだけ使いました。

私の勝手なイメージ、お洒落の代表イチジク。これを版画にできたら。このふわふわした実をどう版画にできるだろうかとずっと考えています。実物に触れられる機会が少ないので、来年以降に持ち越しです。

イチジク